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“滋賀らしさ”をデザインにどう出すか|湖・山・言葉

2026.10.07 · 読む時間 約9分 · 木下スタジオ 木下貴博

“滋賀らしさ”をデザインにどう出すか|湖・山・言葉

滋賀でロゴや看板、商品のラベルを作るとき、「滋賀らしさを出したい」と考える方は多いです。ところが、いざ形にしようとすると、湖の青と波の線、という同じところに落ち着いてしまう。この記事では、観光の決まり文句に頼らずに、湖・山・言葉の3つから自分の場所らしさを見つける方法と、「なぜこの形なのか」を説明できるデザインにする考え方をお伝えします。

「滋賀らしさ」が、どこも同じになってしまう理由

滋賀と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、やはり琵琶湖です。だから「滋賀らしく」と考えると、青い色、波の形、湖の輪郭が出てきます。それ自体はまちがいではありません。ただ、同じことを考える会社やお店がたくさんあるので、並べたときに見分けがつかなくなります。

観光のポスターやお土産のパッケージで見慣れた形は、「滋賀」という県全体の顔です。でも、あなたの会社やお店が立っているのは、県全体ではなく、ある1つの場所です。大津の湖岸と、長浜の町なかと、甲賀の山あいとでは、見えている景色も、使われている言葉もちがいます。

県の顔と、自分の場所の顔は別のもの

滋賀らしさをデザインに出したいときは、まず「県の顔」と「自分の場所の顔」を分けて考えると、話が進みやすくなります。県の顔は、誰もが知っているぶん、伝わるのは早い。けれど、ほかと区別するのはむずかしい。自分の場所の顔は、知っている人は少ないけれど、その会社やお店だけのものになります。

決まり文句に頼った形

  • とりあえず湖の青と波の線
  • 県の輪郭をそのままマークに
  • どこの会社にも当てはまる言葉
  • 理由を聞かれると「滋賀だから」

自分の場所から見つけた形

  • 店から見える山や湖の向き
  • 扱っている素材や仕事の形
  • 地元で実際に使っている言葉
  • 「なぜこの形か」を一言で言える

図1 決まり文句に頼った形と、自分の場所から見つけた形

湖を見るとき:「どこから、どう見えているか」

琵琶湖をデザインに使うなら、湖そのものより、「自分の場所から湖がどう見えているか」を手がかりにします。湖は大きいので、見る場所によってまったくちがう顔をしています。

向きと距離で、湖の顔は変わる

湖の西側からは、朝に対岸から日がのぼります。東側からは、夕方に湖の向こうへ日が沈みます。湖が目の前に広がる場所もあれば、田んぼの向こうに細く光って見えるだけの場所もあります。高島のように山と湖が近い土地では、湖は「空の下の帯」ではなく、山のすぐ足もとにある水として見えます。

この「向き」と「距離」は、その場所にしかないものです。たとえば、毎朝の光をマークの角度にする、湖が細く見える景色を1本の線にする。こうした形は、湖の輪郭をそのまま描くより、ずっとその会社らしくなります。

湖の色は、1つではない

湖の色というと、多くの人が澄んだ青を思い浮かべます。けれど、実際の湖は、季節や時間や天気で色を変えます。冬の曇った日の鈍い灰色、夏の夕方の金色に近い光、雨上がりの緑がかった水。毎日湖を見ている人なら、「うちの前の湖は、こういう色のことが多い」と言えるはずです。

決まりきった青ではなく、自分がよく見ている湖の色を主の色にすると、同じ「湖の色」でも、ほかの会社とは重なりにくくなります。スマホで湖の写真を何枚か撮って並べ、いちばん「いつもの湖」に近い1枚から色を取る、という方法もあります。

湖を「使っているもの」として見る

湖を、眺めるものではなく、仕事や暮らしで使っているものとして見る方法もあります。湖の魚を扱う会社、湖岸のヨシを使う工房、湖を渡る船やバス。湖と自分の仕事がどうつながっているかを考えると、形の手がかりが見つかります。

ヨシ細工の工房の名刺のデザイン。ロゴの細い縦線を紙の下の端まで伸ばしている
制作例(見本):ヨシ細工の工房の名刺。ロゴの細い縦線を、紙の下の端まで伸ばしています。刈った葦ではなく、生えている葦のつもり。

この例では、湖そのものは描いていません。湖岸に生えている葦を、細い縦線の束として置いているだけです。それでも、湖のそばの工房だということは伝わります。湖を描かずに湖を感じさせる、という方向もあるということです。

山を見るとき:毎日見ている稜線から

滋賀は湖のまわりを山に囲まれています。比良、比叡、伊吹、鈴鹿。どの山が見えるかは、場所によって決まっています。湖に比べて、山はデザインの題材として選ばれることが少ないぶん、ほかと重なりにくい手がかりになります。

店の前から見える山の形

毎日見ている山の稜線は、その土地に住む人にとって、言葉にしなくても分かる目印です。遠くから来た人には分からなくても、地元のお客さんは「あ、あの山だ」と気づいてくれます。地元の人に向けたお店なら、この「気づく人には分かる」くらいの距離感がちょうどいいことがあります。

和菓子店のロゴのデザイン。同じ太さの線1本で書いた小文字で、hの上だけを比良山の形に立ち上げている
制作例(見本):「比良製菓」。同じ太さの線1本で書いた小文字。h の上だけを山(比良山)の形に立ち上げています。

この例では、山を絵として描くのではなく、店名の文字の一部を山の形にしています。山の絵を横に添えると、どうしても観光の絵はがきのようになります。文字の中に入れると、山は「飾り」ではなく「名前の一部」になります。

山は「季節」も連れてくる

山は、季節で色が変わります。冬の白い頂、春のやわらかい緑、秋の色づき。ロゴの形には山の稜線を使い、チラシやSNSの色だけを季節で少し変える、という使い方もできます。形は変えずに、色の差し替えで季節を伝える方法です。色の決め方は「滋賀の会社・お店の色の決め方」にまとめています。

言葉を見るとき:地名・呼び名・言い回し

湖や山のような景色だけでなく、言葉も、その場所らしさを持っています。むしろ、言葉のほうが景色より細かく場所を分けてくれることがあります。

地名の読みと、昔からの呼び名

滋賀には、読み方が少しむずかしい地名や、地元でだけ通じる呼び名がたくさんあります。町の名前、川の名前、通りの名前、昔の村の名前。店名や商品名に、こうした名前の一部を使うと、その土地とのつながりが自然に伝わります。

ただし、読みにくい名前を使うときは、ふりがなやローマ字を添えて、初めての人でも読めるようにしておきます。読めない名前は、覚えてもらえず、検索もしてもらえません。名前の決め方は「小さな会社・お店のロゴの作り方」でも少しふれています。

地元の言い回しは、使う場所を選ぶ

地元の言い回しを看板やチラシの見出しに使うと、親しみが出ます。一方で、使いすぎると内輪向けに見えたり、観光向けのわざとらしさが出たりします。ロゴや会社の名前のように長く使うものより、季節のチラシやSNSの一言のように、気軽に変えられる場所で使うほうが合うことが多いです。

01

湖

どの向きから、どの距離で見えているか。仕事でどう使っているか。

02

山

店の前から見える稜線。季節で変わる色。

03

言葉

地名や昔の呼び名。地元の言い回しは使う場所を選ぶ。

図2 自分の場所らしさを見つける3つの手がかり

「なぜこの形か」を説明できるデザインにする

湖・山・言葉から手がかりを見つけたら、それを形にします。このとき大事にしたいのは、できあがった形について「なぜこの形なのか」を一言で説明できることです。

説明できる形は、ぶれにくい

理由のある形は、あとで迷ったときに戻る場所になります。看板を作るとき、名刺を作るとき、ホームページを作るとき、「この線は毎朝見える山の稜線だから、ここは切らない」と言えれば、作る人が変わっても形がぶれません。反対に、理由のない形は、作るたびに少しずつ崩れていきます。

アートディレクターの目線文字やロゴは「形の話」だと思われがちですが、木下貴博は、形が決まる手前の決まりごとから組み立てるようにしています。「この線は山の稜線」「この点は停留所」というように、形の理由を先に置いておくと、見た目はあとから自然に決まっていきます。滋賀らしさも同じで、青を塗ることがらしさなのではなく、その場所でしか生まれない理由があることが、らしさになります。名刺1枚の小さな仕事でも、誰がどこでどう受け取るかから決めているのは、そのためです。

理由を1枚の紙に残しておく

形の理由は、口で伝えるだけだと、いつか忘れられます。ロゴを作ったときに、なぜこの形なのか、どの山の線なのか、どの言葉から取ったのかを1枚にまとめておくと、社員や家族、次に頼むデザイナーにも同じ話ができます。お客さんに聞かれたときの話の種にもなります。

バス会社のロゴのデザイン。頭文字のkとbを丸い形で組み、間の点をバス停に見立て、色は湖のグラデーション
制作例(見本):「湖畔バス」。頭文字の k と b を丸い形で組み、間の点をバス停に見立てました。色は湖のグラデーション。

この例では、湖の色を使っていますが、形の理由は「バス停」です。湖は色として背景にあり、主役は会社の仕事そのもの。湖と仕事を、それぞれの役割に分けて置いています。

滋賀の会社・お店が、らしさを形にする手順

ここまでの話を、実際に進める順番にまとめます。いきなり形を描きはじめるより、まず手がかりを集めるところから始めるのがおすすめです。

  1. 集める店の前の写真・地名・素材
  2. しぼるほかと重ならないものを1つ
  3. 理由を書くなぜそれかを一言で
  4. 形にする理由が見える形に
  5. 確かめる看板・名刺に置いて見る

図3 自分の場所らしさを形にする手順

手がかりは、写真で集める

手がかりを集めるときは、言葉でまとめるより、写真を撮っておくのがいちばんです。店の前から見える景色、通りの様子、使っている素材、古い看板。スマホで撮った写真で十分です。デザインを頼むときにその写真を見せていただくと、言葉だけで伝えるよりずっと早く話が進みます。

しぼるときは「ほかの会社でも言えるか」で確かめる

手がかりがいくつか集まったら、それぞれについて「同じ地域のほかの会社でも同じことが言えるか」を考えます。誰でも言えるものは外し、自分たちにしか言えないものを残します。残ったものが1つあれば十分です。たくさんの要素を詰めこむと、どれも伝わらなくなります。

置いてみて、景色から浮いていないか見る

形ができたら、看板や名刺に置いた状態で見てみます。とくに看板は、まわりの景色と並んで見られます。彦根や近江八幡の古い町並みでは、強すぎる色や形が浮いて見えることがあります。反対に、郊外の大きな道路沿いでは、控えめすぎると気づいてもらえません。場所ごとの看板の考え方は「道路沿いの看板のデザイン」に書いています。

らしさは、作ったあとに見えてくることもある

ここまで、手がかりを集めて形にする順番を書いてきました。ただ、らしさは、はじめから全部見えているとは限りません。ロゴを看板に置き、名刺を配り、チラシを何回か作ったあとで、「うちはいつも、この線とこの色で話していたんだ」と気づくことがあります。

音楽でも同じことが起きます。99letters という名前で20年ほど音楽を続けてきた中でも、曲は、偶然できた音色から、いつのまにか形になっていくことがほとんどでした。個性は先に固めるものではなく、作ったあとに気づくもの。デザインも同じ順番で考えています。だから、最初から完ぺきな「滋賀らしさ」を探しすぎなくて大丈夫です。理由のある形を1つ置いて、使いながら育てていけば、それがその会社の顔になっていきます。

滋賀でロゴと看板を頼むなら:それナル?(木下スタジオ)の進め方

それナル?は、滋賀の木下スタジオ(木下貴博)が運営している、小さく頼める窓口です。大津・草津・守山・近江八幡・彦根・長浜・高島など滋賀県内を中心に、京都・大阪・名古屋や全国からもオンラインで受けています。打ち合わせは基本オンラインで、必要なときだけ伺います。

  • 窓口は1人。聞き取りから納品まで同じ人が受けます
  • 値段を先に出します。ロゴは49,800円〜(3案から1つ・名刺デザイン込み)、野立て・壁面の看板は39,800円〜(現場写真への合成つき・製作費取付費は別)です
  • 作ったデータはお渡しします。形の理由をまとめた1枚も一緒に残せます

「何を手がかりにすればいいか分からない」という段階からでも相談できます。店の前の写真や、気になっている地名を送っていただければ、どこから形にできそうかをお伝えします。窓口はロゴ・名刺のページと看板のページにまとめています。返事は24時間以内です(土日祝は翌営業日)。

琵琶湖をロゴに使うのは、やめたほうがいいですか?

やめる必要はありません。湖の輪郭をそのまま描くより、自分の場所から湖がどう見えているか、仕事で湖とどうつながっているかを手がかりにすると、ほかの会社と重なりにくくなります。

滋賀以外のお客さんにも、らしさは伝わりますか?

形に理由があれば、知らない人にも「何か意味がありそう」と伝わります。そのうえで、ホームページやお店の説明で理由を一言添えると、話のきっかけになります。

地元の言葉を店名に入れても大丈夫ですか?

大丈夫です。ただし、読みにくい名前は覚えてもらいにくく、検索もされにくくなります。ふりがなやローマ字を添えて、初めての人でも読めるようにしておくのがおすすめです。

手がかりが何も思いつかないときは、どうすればいいですか?

店の前の景色、通り、使っている素材などを、スマホで撮って送ってください。一緒に見ながら、ほかと重ならないものを探します。作るものが決まっていない段階でも相談できます。

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